【おことわり】当記事では、札沼線の北海道医療大学~新十津川間を指して「札沼線」と呼んでいる場合がありますが、札沼線の全線が廃止になる訳ではありません。何卒ご了承ください。また、記事内のすべての写真・資料は2018年11月に撮影・入手したものです。
突然の廃止となってしまった札沼線
「札沼線 北海道医療大学~新十津川間」
2020年5月6日に、大勢の人に見送られて、感謝されながら鉄道の役目を終える”はず”でした。
しかし、相手は自然災害や事故ではなく、例年では例を見ない「感染症の流行」。
JR北海道は、ゴールデンウィーク中の全列車を指定席にすることを発表するなど、感染症予防と両立しながら可能な限り多くの人に見送ってもらうための努力を重ねていたと思います。
一方で、新型コロナウイルスの脅威は想像以上に大きなものでした。2020年4月16日、安倍首相は東京、大阪、福岡などに発令していた緊急事態宣言を全国に拡大することを表明しました。
それを受けて、2020年4月16日の夜、JR北海道は「大変残念」としながらもプレスリリースを出しました。
そこには、以下のような記述がありました。
ーーー2020年4月17日 札沼線運行終了ーーー
突然の札沼線の運行終了の発表に、鉄道ファンを中心に衝撃が走りました。
この状況を鑑みるに、仕方が無いと思います。悲しいですが、そうせざるを得なかったのは自明です。
このページでは、2018年11月に私Mokutanが札沼線に乗車した際の乗車記を紹介しています。
拙い記事かもしれませんが、私の札沼線乗車体験を共有し、札沼線に乗車できなかった方のお別れの助けに少しでもなればいいな、と思って投稿させていただきました。
札沼線の歴史をふりかえる
ここで、札沼線の歴史を簡単におさらいしておきましょう。
札沼線は、1935年に全通した札幌と石狩沼田を結ぶ路線です。
国鉄時代の1972年に新十津川駅~石狩沼田駅間が乗客減によって廃止され、桑園駅から新十津川駅を結ぶ路線になりました。
国鉄民営化後の1991年には札沼線全線に学園都市線の愛称を付けられ、札幌近郊の輸送が強化されていきました。一方、石狩当別・北海道医療大学駅より先、新十津川駅までの末端区間は、運転本数が少ないままで単行ワンマン運転が主流となっていました。
2000年代、近郊区間の桑園~北海道医療大学間は複線化などを重ね輸送力を強化。さらには2012年に電化を達成しました。
末端区間については、民営化してしばらく特に動きはありませんでしたが、2016年のダイヤ改正で最末端区間の浦臼~新十津川間の列車が1日1往復まで減便。2018年のダイヤ改正で日豊本線の重岡~延岡間が1日1.5往復の運転になるまでは、日本一早いJRの始発列車として名をはせました。
そんな札沼線の末端区間も、石勝線夕張支線などが廃止されていく中よく耐えきりましたが、ついに2020年4月に運行を終了することとなりました。
基本情報
区間:桑園〜新十津川 76.5km (北海道医療大学〜新十津川間 47.6km)
駅数:29駅
最高速度:85km/h (桑園〜石狩当別間)
65km/h (石狩当別〜新十津川間)
複線区間:八軒〜あいの里教育大間 11.4km
電化区間:桑園〜北海道医療大学
沿線情報 (桑園〜北海道医療大学間)
新十津川行きの最終列車は石狩当別駅を7:45に出発するため、6時台に札幌駅を出る列車に乗らなければいけませんでした。(6:21発 石狩当別行き・6:39発 石狩当別行き・6:58発 北海道医療大学行き)
札沼線の北海道医療大学以南は快速エアポートにも充当される721系や733系が走っているため、Uシート車両が連結されている場合があります。あくまで普通列車なので追加料金を払う必要がなく、乗り得列車での列車旅を味わえます。終点の石狩当別までは40分程かかります。
朝の時間帯は下り列車は沿線の大学等への通学客、上り列車は札幌近郊への通勤・通学客で混み合います。複線区間を最大限に活用して頻繁に列車交換を行うなどラッシュ時間帯の増発に力を入れており、6両に増結するなど輸送容量は十分に確保されています。
石狩当別駅の上り始発列車は5:33発 快速エアポート60号 新千歳空港行きとなっており、早朝帯の空港アクセスの一角を担っています。
電化区間は北海道医療大学駅までですが、当時は一つ手前の石狩当別駅で下車して新十津川行きに乗り換えました。新十津川駅までは50.6kmを1時間43分かけて走破する行程になっており、列車旅にはちょうど良い長さかと思います。
札沼線の一部区間が廃止になることで、石狩当別以北を含めて札沼線に気動車がやってくるのも最後になると思われます。
沿線情報 (北海道医療大学〜新十津川間)
最初の停車駅であり電化区間最後の駅である北海道医療大学駅では乗客のほとんどが下車し、札幌方面からの最速乗り継ぎとなる北海道医療大学駅止まりの列車(札幌駅 6:58発)からの乗り換えと思われる乗客が多数乗車してきました。駅のナンバリング表記があるのも当駅が最後となります。
北海道医療大学駅から少し先へ進むと架線の途切れ目が見えてきます。いよいよ札沼線の非電化区間に突入します。
北海道医療大学駅から乗車率が上がり、乗車目的の鉄道ファンだけでなく移動の足として利用する乗客も多いというのが印象的でした。
札沼線の非電化区間は路線距離の割に交換駅が少なく、1面1線の無人駅が目立ちます。
北海道には「ダルマ駅」と呼ばれる貨車や車掌車等を改造して簡易駅舎として活用している例が数多くあり、札沼線も例外ではなくいくつかの「ダルマ駅(貨車駅)」が存在します。
北海道医療大学駅から約30分(末端区間のおよそ3割)でたどり着く石狩月形駅は非電化区間で唯一の交換可能駅となっています。当駅から先(新十津川方面)には1列車しか入れない構造になっており、最後の交換駅としての役割も持っています。この駅は終日社員配置駅であり、石狩当別の駅員が業務を行っています。
浦臼駅までは1日に6往復運行されていますが、この駅を境に本数が激減し「1日に1本しか列車がやってこない」区間へと移ります。このあたりになると住民の足としての役割は減り、乗客の大半を占める鉄道ファンを運ぶための路線となります。また、同時に札沼線の中でも景色の良い区間へと入っていきます。
いよいよ終着の新十津川に
札幌駅を出発してからちょうど2時間30分で新十津川駅に到着しました。建設時は石狩沼田まで路線が続いていたため線路も駅の奥の方まで敷いてありますが、線路がまだ続いているどころか1日に1回しか列車がやってこないというのは本当でした。
列車が停車している間は十数人の鉄道ファンがホーム上を歩き回って写真を撮ったりしていて、賑やかな雰囲気ではあるもののいざ列車が去って行くと途端に静まりかえり、1〜2km先で列車が鳴らす警笛が聞こえて来るほどでした。列車には毎日一定数の乗客が乗っているとはいえ、その全てが乗車目的であり生活路線として利用している人がいないのを見るとどこか寂しさを感じたものです。
【番外編】滝川駅まで歩いて乗り換えしてみた
札沼線は本数が少ないローカル線であることから、新十津川駅の周りには何もないと思っていませんか?
実は新十津川町は石狩川を挟んで滝川市と接しており、終電を逃した場合の乗り換えには便利な滝川駅が最寄りとなっています。
滝川駅は函館本線と根室本線が通る主要な駅で、特急カムイ号・特急ライラック号が停車する非常に便利な駅です。
駅から程近い新十津川町役場と滝川駅を結ぶ路線バスは1時間に1本走っていますが、もちろん歩いて向かう事もできます。
滝川駅までは約4.5kmの道のり(徒歩で1時間弱)ですが、自然の景観を独り占めするには良いと思います。
春・夏は木々の緑、秋は紅葉、冬は雪景色と季節によって違った魅力を味わえるウォーキングコース(?)になっています。
まとめ
札沼線の末端区間の廃止については人それぞれ思うところがあると思います。「思い出を作りにもう一度乗っておきたかった」「一度くらい乗ってみたかった」「乗りには行けないけどどんな路線だったんだろう」など感情の種類は様々であることでしょう。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて最終運行日が当初の予定より2週間繰り上げになっていましたが、緊急事態宣言の発令によりさらに1週間繰り上げになり「廃止の前日に発表」という異例の状況に見舞われ、最終列車を見送ろうと準備していた鉄道ファンの方がどれほどいたかを想像すると正直心が痛みます。
しかし、札沼線が廃止になっても(コロナウイルスの流行が収束した後に)新十津川町を改めて訪れる価値は十分にあると思います。
もちろん私もいずれ再訪しようと心に決めています。廃線跡を巡ったり、新十津川町周辺の観光地を訪れるなど楽しみ方は何通りもあります。苦しいのは皆同じです。いつかは日常を取り戻せます。また旅行にも行けるようになります。
不運な事情も重なって予定よりも早く鉄道としての89年の歴史に幕を下ろすことにはなりましたが、札沼線が私たちの心の中から消えることはありません。今までありがとう札沼線。
この記事を通して一人でも多くの鉄道ファンの心を救えることができれば幸いです。